エキサイティングな科学

yamasa62005-12-18

花の性―その進化を探る (Natural History)

花の性―その進化を探る (Natural History)

あとがきにおいて、著者はグールドのワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)の中のこんな一節を引用している。

専門家にも、興味を持った素人にも同じように読めて、しかもどちらをも満足させる科学書というジャンルはいまだ可能だと私は信じている

著者もやはりこの様な書物を目指したということだが、その試みは成功をおさめたと言っていいだろう。この本では著者の大学院時代から助手、助教授時代までの有性生殖・無性生殖と他家受粉・自家受粉の進化についての研究とそれにまつわる逸話が書かれている。
実際、酵素多型を調べたり数式で適応度を計算したり、といった聞き慣れない研究手法には丁寧に考え方が説かれているし、その材料となる見たこともない植物(ホソバハグマとか、キツリフネとか)はカラー写真と必要な解説がついている。
しかし、なんと言っても野外で実際にデータを取り、机上の数式で予測された理論を検証し、訂正し、新たに理論を創り出して生物の適応進化の謎解きをしていく過程は圧巻で、引き込まれた。調べると現れてくる意外な事実を知ることや、それをうまく説明できる理論を考えることのおもしろさが伝わってきた一冊。

今年6月の小石川植物園での受粉昆虫実習をやる前に読んでおくべきだった、と反省しました…。