−本のページに火がつき、燃え上がる温度…。

華氏451度 (ハヤカワ文庫 NV 106)

華氏451度 (ハヤカワ文庫 NV 106)

前々から読みたかったのですが、先日ついに大学の図書館に置いてあるのを見つけたので借りてきました。内容としては、

近未来の(おそらく)アメリカ。人々は「海の貝」と呼ばれる小型のラジオを耳にはめ込み、「テレビ室」の巨大なテレビ画面に没頭して、本など読まなくても「幸せに」暮らしていた。
主人公のモンターグの仕事は本と本を隠し持っていた人の家を焼く、焚書官。
しかし、不思議な少女と出会ったことから、彼の日常は崩れていく…

といったもの。久しぶりにおもしろい小説読んだ気がしました。
以下ネタばれを含みます。
本を読むことを禁じられた世界とは、人々が思考を停止した世界。
普段はラジオとテレビに縛り付けられ、戦争の予感も政治の話も、ドラッグとパーティーとドライブで忘れられてしまうようです。
それは、署長ビーティの指摘によると、
工業化→大衆の啓蒙→少数派の抑圧
の3つの手順でわりと簡単にできるみたいです。「大衆の心をつかむことは、必然的に単純にならざるを得ない」とか。
ところどころ現代社会と重なって見えるところは、ブラッドベリの視力のよさの証明ですね。


書物のみが思考を促すとしているあたりが作家らしいけど、

  • ラジオ → 聴覚
  • テレビ → 視覚+聴覚

で直接的に体験できるメディアである以上、書物のように一旦記号化された体験を頭の中で想像して復元する作業より頭を使わないのは、確かではないでしょうか?それは「タモリのジャポニカロゴス」を見れば明らかなことです。
そして、自分が納得すればページをめくれる点で読書は能動的だけど、他の2つは受動的、とも言えそうです。
じゃインターネットは?
僕の場合、完全にネットに「使われて」ますね(笑)


印象的だったのが、最後の解説での、ブラッドベリがこの小説を書くきっかけ。
最初は、当時吹き荒れたマッカーシズムの嵐への抗議だったようです。と言っても、彼の芸術至上主義はその対象となった某全体主義とは全く相容れないものだった。むしろ、マッカーシズムの持っていた盲目的な反知性主義が嫌いだったとのこと。

あなたの意見には反対だが、あなたが意見を言う権利は命がけで守る

なんて言葉を思い出しました。
トリュフォーが映画化した作品もあるらしいから、いつか見てみたいと思います。

華氏451 [DVD]

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