集合行動と進化的自殺

前回の記事から一年経ってしまいました。
今日は集合行動が進化することで個体群動態が変化し、最終的に絶滅に至るという理論の論文
集合行動は生物に広く見られる現象ですが、今回はフェロモンなどで仲間を呼ぶ昆虫を考えます。
離散世代のモデルにおいて複数のサイトがあり、新しい世代の個体が順番にサイトを選ぶとします。その際に、既にサイトに入った個体数をもとにサイトを選ぶ重み付けのパラメータηを考えます。ηが0だと完全にランダムで、ηの値が大きくなるほど既に個体数が多いサイトを選ぶような形質です。
サイトに一定数以上の個体が集まると資源をうまく利用できるようになります(アリー効果)が、個体数が多くなりすぎるとスクランブル型の競争が激しくなって次世代に残すことができる個体数が減ります。アリー効果はある閾値で一気に効率が良くなるシグモイド関数で、競争は個体数が増えることで連続的に減少する指数関数で決定されます。
サイトごとの環境収容力に差はないため、ランダムにサイトを選んで均等に分布した方が平衡状態の個体数は増えますが、同時にアリー効果も強くなります。
この状態でηごとの個体数変動を見ると、ηが0の際には個体数振動が起きて不安定になるパラメータ条件でも、ηを1にすると平衡状態になることがわかりました。つまり、集合行動は個体群動態を安定化する働きがあります。
では、ηが進化するとどうなるか。Adaptive Dynamicsの手法で、在来種と少しだけ異なるηの値を持つ突然変異個体の侵入が可能かどうかを調べてみると、初期値がある程度低い場合ηが0になる、つまり集合行動が起きないように進化することがわかりました。初期値がある程度低いと、個体はどのサイトにも均等に分布しているため、突然変異個体がちょっと集合しても資源利用の効率が大して良くならないうえ、競争が激しくなってしまうためだと思われます。
一方、初期値がある程度大きければ、ηが次第に大きくなる進化が起きることがわかりました。最初から集合する傾向があれば、サイトごとの分布が偏っているため、既に個体数が多いサイトに入らないと資源を利用することができません。ランダムに選んでたまたま誰もいないサイトに入ると、アリー効果のために資源を利用することができなくなる可能性があります。
しかし、進化の結果ηが大きくなるとサイト内での競争が激しくなり、平衡状態の個体数が0に近付いていって絶滅が起きることがわかりました。このような適応進化の結果起きる絶滅は「進化的自殺(evolutionary suicide)」と呼ばれています。これは適応進化の結果絶滅を免れる「進化的救助(evolutionary rescue)」と逆の現象ですね。
この論文では、これまで実証研究で言われてきたような「アリー効果のみによって集合行動が進化しうる」という論理が必ずしも成り立たないことを示しています。
このモデルはかなり単純なアルゴリズムで集合行動を起こす場合を考えていますが、中程度の個体数のサイトを選んだり世代内で移動できるようにすれば、理想自由分布の結果に近付いていくかもしれません。